2−1 国家戦略会議2報告書とコメント
 
(国家戦略会議分科会・同部会報告書)
定年制廃止=有期雇用契約リセット制への移行
 
―衝撃提言の背 景と問題点(コメント)―
 
2012年8月15日  佐藤 治
 

■定年制廃止−衝撃的提言の背景

 去る7月6日政府の国家戦略会議・フロンテイア分科会が 「フロンテイア分科会報告書」(座長大西隆東大大学院教授) 「繁栄のフロンテイア部会報告書」(座長柳川範之東大学院 教授)を同時に発表し、大きな反響を呼んでいる。

 4部会を統括する「フロンテイア分科会報告書」では、

▲予見される2050年の日本は、「坂を転げ落ちる日本」 であり、経済が停滞し、貧困と格差が広がり、国民がアイ デンテイテイを喪失し、中核的国家利益の維持も危うくなる。
 
▲・時代は新たな「国家ヴィジョン」を求めている。
あらゆる能力、資源を創造的に結合し、新たな価値を創 造する「共創の国」づくりを提唱する。
 
・課題先進国日本(少子高齢化、人口減少、財政逼迫、低 成長、産業構造硬直化、食料・エネルギ−・資源問題、 原発問題等)が切り拓くべき先駆的な国家モデルを提示 し、取り組むべき方策の方向性を明示する。
 
・国民生活や国家機能を維持するためには、一人当たりの GDPの成長が不可欠で、課題克服のためあらゆる潜在 力を動員する。特に定年制の見直しを含む就労・雇用形 態の柔軟化と再教育訓練の充実を組み合わせる「人財戦 略」により、全員参加と新陳代謝を両立させていく。
 
・実行性を高めるために、国民の意識改革と政治の強いリ −ダ−シップが不可欠である。

 これを受けて柳川教授の「部会報告書」では、民間を主役 とした成長戦略と社会構造・制度改革戦略の方向性を大胆か つ明確に打ち出している。その目玉は定年制廃止=有期雇用 契約リセット制への移行という衝撃的な提言である。





■柳川教授の所論と問題点(若干のコメント)

▲所論のポイント
@拡大する世界経済と貧困化する日本、人材・富の流出、活 力の喪失という現状認識を前提に、日本の再生・繁栄のた めには、日本人の底力を最大限発揮して新しいチャレンジ を。主体は民間で、政府は規制・制度の見直しや事業環境 整備の基盤づくりに専念、一定の経済成長は必要条件。

A世界に通用する人材の育成が急務、人材開発に政策の軸足を移し、人財戦略を国家戦略に。社会保障・教育分野での就職資格要件の緩和、新たな民間仲介サ−ビスの創出、女性の就業・活躍促進策等を具体的に列挙。さらに

B欧米流の有期雇用契約リセットの導入を意図する。過渡期の段階で定年制の見直しも必要、定年引上げは逆効果。
人生で2〜3回転職する社会を目指し、労使が自由に定年年齢を 設定、最速で「40歳定年制」を認める。ただし定年後1〜2年 程度の所得補償を義務付け、社員の再教育機会を保障することで 雇用移転を円滑化。金銭解雇ル−ルも明確化。

 社会の意識改革に務め、学び直しというセーフテイネットを整備し、 人々が新しい分野に積極的にチャレンジできる社会を構築。 雇用保険を再雇用調整助成金から再教育訓練給付へ組み替え てバックアップ。

Cその他科学技術による海外フロンテイアの開拓、規制改革による内需型サ−ビス産業の活性化、地方の産業集積を 促進する制度整備、規制監視機関の設立、EPA等ビジネス 環境の整備促進、農業や内需型産業の成長・輸出産業化促進等

▲所論の問題点についての若干のコメント

  @の現状認識と方向性は的確である。
Aの考え方も妥当である。

Bの「40歳定年制」の導入の意図は理解できないわけでは ないが、慎重に取り扱うべきである。年功序列制度は崩れ たものの、定年雇用制は一種の企業・労働文化として日本 で定着しており、入念な事前準備・論議・交渉もなく一足飛びに導入することは、大きな社会的混乱を招くものと危惧される。
移行には国民的な議論、合意形成と受入れのための社会的基盤の 整備が必要である。





 小泉内閣の犯した雇用形態の2極化−非正規労働者群大量発生の 解消策もないまま定年制を廃止すれば、労働者への一方的な皺 寄せは必至であり、市民の生活権の基盤が崩れ、社会不安が 広がる惧れがある。「40歳定年」後の再就職は言うほど簡単 ではない。学び直しも日本の大学(院)がその役割を担えると は到底思えない。

 しかしながら、グロ−バル化で後れをとった日本の起死回生 策として、雇用の流動化、労働生産性の向上、人件費の圧縮、 マイナス成長回避は避けて通れない。一方若い人たちの就業 引上げと意欲のある健常高齢者の就労促進、経営スキル練磨者 への人事評価見直し等も大きな課題。

 定年制も実質的に大きく変容しており、社会保障の有様とも 絡んで、今後さらに加速しながら変質し、早晩(予想よりも早く) 定年制の見直しを迫られよう。当面は職業再訓練の制度を充実 させて雇用の流動化に対処し、国際化のうねりの中で積極的に 海外就労の機会を増やしていくことが肝要。

 しかし、抜本的には今回の提言の主旨を活かしながら、 在るべき日本の国家・財政・経済・社会像を明確に打ち出し、 行動に移し、その一環として有期雇用契約リセット制の 早期導入に万全の体制をもって臨むべきであろう。

Cについては異論はない。農業については掘り下げが必要。

その他
・人口減少に歯止めをかけ、世界一の老人国の桎梏からの 脱出をはかることが喫緊の要事。世界で類例を見ない抜本 策の真剣な検討を望む。良質な外国人労働者の流入促進も 検討されてよい。
・今までにない大胆な規制緩和と思い切った構造改革の 推進により、雇用・成長を産み出す基盤整備・方策が真剣に 検討されるべきである。口先の改革ではなく、平成の革新が緊要。
個人的には究極の成長・構造政策は伸るか反るかの円高対策の断行にあると考える。
・最後に「部会報告書」はよくまとまっていると思うが、デ−タによる裏付けがないのが最大の欠点である。
また、美辞麗句が多く、いささか散漫で、所謂ド迫力がない。 しかし貴重な一石を投じたことは高く評価したい。
・「分科会報告書」の「共創の国」づくりには違和感がある。

    

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